2018年2月8日木曜日

マンスリープロジェクト「トークセッション 宮田慶子×小川絵梨子」

20166月に発表された新国立劇場 新芸術監督予定者ニュース。
芸術性も大衆性も兼ね備えたラインナップ、マンスリープロジェクトと
いう素晴らしい企画を立ち上げた演劇部門の芸術監督 宮田慶子さんの退任
は残念だが、次はどんな方になるのだろうと記事を確認して、
思わず目を見開いた。

「演劇部門 小川絵梨子」

演出を手掛けた舞台を何作か観ているはず。
でもこの方若手じゃなかったかしら・・・?
慌てて経歴を確認するとなんと1978年生まれ!30代!
これは・・・これは凄いことだ。
30代の女性演出家が芸術監督に、しかも国立の劇場の芸術監督に
就任するのだ。

小川さんの就任はもう今年の秋。
そして1月のマンスリープロジェクトは、宮田さん&小川さんの新旧芸術監督
トークセッションだというので、これは必見だと小躍りしながら劇場に
足を運んだ。

上演時間は約90分間だったかな。かなり密度の濃い話を聞く事ができた。
自分の防備録として、特に印象に残った部分を書いておこうと思う。

・まず話題に上がったのはやはり年齢の若さ。
小川さん曰く「ギリギリ30代ですが」。

宮田さんが芸術監督に就任したのが52歳の時。
それでさえ歴代最年少で、周りから「芸術監督がそんなに若くて大丈夫なのか」
と言われていたらしい。

小川さんはオファーが来て率直に驚いたとのこと。そりゃそうだ。
芸術監督に誰がなるかというのはフリーの演出家にとって死活問題なので、
仲間と「お仕事をくれる人になるといいね~」と話しあっていたのに、
まさか自分に話がくるとは。
宮田さんは初めて仕事をした時から素晴らしい才能だと感じ、すぐに
新国立の若手企画(だったかな?)のオファーを出した。

・とりあえず小川さんの経歴をということで。
中学生くらいからずっと演劇ぶっくを読み劇場に通う演劇ファンであった
けれど、本格的な活動を考え始めたのは高校を卒業してから。
日本でプロの演出家になるのはどうすればいいかわからなかった、という
話が何度か出てきました。

小劇場ブームの先輩方は自分のヒーローだけれど、彼らは強烈な個性と
自分の作りたい演劇観を持ち、脚本・演出さらに劇団の主宰者でもある。
自分にはあんな圧倒的な才能がないことはわかっているし、演出だけをや
りたい。
となると他に思いつくのは老舗の新劇劇団だが、新劇は厳しくて怖い
イメージがあった(笑)
新劇出身の宮田さんも
「新劇の演出はデビューまでにとても時間がかかるしね。苦節十何年という世界。
しかも徒弟制度なので、体系的に学ぶのは難しい。
他の人の演出方法を観ながら学んで、足りない部分は独学しかない」

そんなこんなで、大学後はニューヨークのアクターズスタジオで学ぶ
ことにした小川さん。
ニューヨークに来た日本の演劇関係者にプロの演出家になる方法を相談しても
「わからない」「脚本は書かないの?そうなると、うーん、東宝かなぁ?」
という曖昧な答えしか返ってこない。
しかし帰国すると日本の演劇界もかなり状況が変わっていて、フリーの
演出家も比較的活動しやすい環境になっていた。

・印象的だったお金の話。
新国立劇場は国の税金で全てを賄っていると考えている人が多いが、
それでは全く足りない。
企業・スポンサー・個人からの賛助金にも支えられている。
アメリカには国立劇場がない。(確か)州立劇場も少なく、ほとんどは
非営利団体として劇場を運営している。
なぜこれが可能かというと、企業から劇場への寄付金がとても多いから。
寄付による税額控除があるので、企業は積極的に利用する。
だから、実はアメリカの文化予算はとても低いのだそう(韓国の文化予算は高いらしい)。

企業に限らず個人の寄付も多い。
小川さんがアメリカで仲間と小規模の芝居を作る時にファンドレイジングで
資金を募った。
大口はなかなか難しく、友達に声をかけると
「いいよ。どうせ国に税金を払うくらいならその活動に出すわ」
と数万円の寄付を気軽に受けてくれる人が結構いる。
日本も寄付に対する税額控除があるのになかなか広まらないですね、もちろん
若い人たちは自分の生活で精いっぱいだからしょうがないとは思うけれどと語るお二人。

・小川さんが任期中の大きな指針として提案した「三つの柱」。
この三つの柱をわかりやすく説明してくれた。

1つ目は幅広い観客に観客層に演劇をお届けする。
エッヂの効いた難解な作品も必要だと思うけれど、老若男女に親しみやすい演劇を届けたい。
でも、少し背伸びをしたいこともある。
そのバランスを上手に汲んだラインナップを試みたい。

2つ目はフルオーディションとディベロップメント。
本来、演劇は上演するべき良い脚本があり、その脚本を上演のために役者を集める。
しかしなかなかそうはいかない。それは「集客」の問題があるから。
確かに集客は大事だ。ガラガラの客席は舞台上の役者のテンションも下がる。
また、フリーのプロデューサーや演出家は、毎回次の作品が興行的に
失敗したら自分のキャリアが終わるかもしれない、もう仕事は来ないか
もしれないという覚悟で臨んでいる。

しかし、集客ありきで演劇を作るとスケジュール調整難(なかなか稽古の
時間が取れない)が発生したり。他にも色々と
オーディションは健全な作り方であるし、何よりその芝居に出たい人が来てくれる。

「『向こうからやりたい!』と来てくれる人と芝居を作るのと、
本人以外の意思でキャスティングされたであろう人に『あのやりたいですか?』と
伺いながら芝居を作るのでは全然違いますよね!」と語り合うお二人を
観て、ご苦労が垣間見えるなあと。

もちろん国立の劇場だからといって、集客を無視できるわけではない。
「ずっと赤字続きだったら、多分私は任期途中でいなくなると思います(笑)」と小川さん。
しかし、新国立劇場だからこそできること。
可能であれば、毎年1本はフルオーディションの作品を上演したい。
今回の「かもめ」は演出が鈴木裕美さん。彼女もずっとフルオーディション
の舞台を作りたいと話していた。
脚本はトム・ストッパードの英語台本を小川さんが翻訳する。

ディベロップメントはまだ正式に固まっていない印象だったけれど、
劇場が開いているから作品を作るのではなく、作品が良いから劇場に
あげる状況を作りたい。
そのために長期間かけてじっくり幾つかの作品を作っていき、場合によっては
途中で演出や役者も変え、仕上がったら協議の上で劇場で上演するという
試みになる予定。

イギリスのナショナルシアターにはディベロップメントの部署があり、
常に200ぐらい待機状態の作品があるらしい(200って・・・)。
作品の出来不出来だけではなく、トランプ政権だからこれをかけてみよう、
など世界情勢や流行によって候補の中からピックアップする場合もある。

3つ目の横の繋がり。
これについては残念ながらあまり覚えていない。
宮田さんも地方の公共劇場と連携をとって何かしたかったけれど、叶わなかった
と話していた気がする。

・注目のラインアップ
小川さんが気にしていたのは
「ナショナルシアターライブ(NT Live)と被ってしまった演目がいくつかあって
偶然なんです~パクリじゃないの~」

確かにスカイライトはNT Liveで知ったけれど、誰もいない国(No Man’s Land
はずっとやりたかった作品だった。
宮田さんも、全く別の国の演出家が上演したい演目がかぶるということは、
これが今の世界の流れなのかもしれないですね、と。

そんな中、ひと際目立つのが少年王者舘「1001(イチゼロゼロイチ)」。
小川「これはもう、私が少年王者舘のただただファンだからです!」
ラインアップの中で、作と演出が分かれていない唯一の作品。招聘枠とのこと。
(そういえば、維新派を招聘して上演してくれたのも新国立劇場だっけ)

・新国立まつり?
宮田さんが自分は叶えられなかったので、小川さんに是非新国立まつりを
やって欲しい!とお願いしていた。
新国立劇場にはせっかくバレエ、演劇、音楽の3ジャンルあるのだから、
その全てを観る事ができるフェスのようなイベントが欲しい。
開催中は短編作品やミニコンサートなどをたくさん上演して、通し券を
購入したお客さんはどれでも見ることができる。

・震災の話
宮田さんが新国立劇場の芸術監督を就任した半年後に大震災がおこった。
あの時の事は一生忘れない、と語る。あの時期、東京中の劇場から
観客が消えてしまった。とりわけ夜公演は。
電力不足で交通機関が麻痺していた東京では、帰宅難民になる人が多かった。
とにかくいち早く家まで辿り着きたい。皆そう思うのが当然だ。

当時、新国立劇場では橋爪功さんと石倉三郎さん出演の「ゴドーを待ちながら」
を上演していた。
その舞台美術がまるで津波の去った後の様な風景で、奇妙な符合にぞわりとした。
足を運んでくれた数少ないお客さんと共に、「来るかもしれないゴドー(何か)を
ひたすら待つ」という経験をしたことは、きっと一生覚えていると言う。

90分でも足りない程の聴きごたえのある対談だった。
国立の劇場なので比較的チケット代も安く、とりわけ学生には大きな割引も
あるので、老若男女がもっと気軽に通ってくれるといいなと思う。 

  新国立劇場 2018/2019シーズン 演劇ラインアップの発表
http://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_011682.html

  2018/2019シーズン 演劇ラインアップ説明会資料
http://www.nntt.jac.go.jp/release/press/upload_files/lineup_drama_2018-2019.pdf

新国立劇場ポスター展「イメージの記憶」

今年は新国立劇場開館20周年。
その記念として、2階3階のギャラリーで歴代のポスター展が開催されている。

 以前ブログに書いたかもしれないが、私は開館当初の新国立劇場
ポスター(チラシ)が大好きだった。
とりわけバレエ・オペラが素晴らしく、くるみ割り人形ならば人形を胸に抱き
夢見るような表情のクララのイラスト。
キトリの優雅なセンスに薔薇をあしらったドンキホーテ。
桜の舞い散る中、大きく羽を広げた蝶をモチーフにした蝶々夫人。
しかし当時通っていた小劇場の折込みには、新国立劇場のチラシ
(特にバレエ、オペラ)は入らないので、わざわざ劇場までチラシを貰いに
行っていた。

それくらい好きだったあのポスターに会える!と、芸術監督トークショーが
終わったその足でギャラリーへ。
ああ、今見ても美しい。ウットリと眺めながら、その美しさの理由を確信した。
イラストだからだ。写真を使っていないからだ。

コンサート、オペラ、バレエを見に行くと、入口で分厚い他公演のチラシ束を
渡される。
そのチラシのほとんどは、大きく書かれた公演名と写真が印刷されている。
クラシックコンサートならばホールで演奏する楽団の全体写真に、指揮者の
姿がドーン!
オペラやバレエならば、ソリストの舞台写真がバーン!
失礼を承知で書くならば、宣伝美術としての美しさは欠片もない。

しかし、何故そうなってしまうかもわかる。
前述のトークショーでも出ていた、集客問題があるからだろう。
コンサート、オペラ、バレエは演劇以上に「ソリスト(あるいは指揮者)が誰なのか」
が重要であり、観客もそこを目当てでどの公演に行くか選ぶ場合が多い。
となると、いかにその情報を目立たせるかという点が最重要で、結果として
定型文のような凡庸なチラシになってしまう。

国立の劇場ならば、他公演のように集客に重くとらわれずに企画をたてる
ことができる。作品で人を呼ぼう。
高い志を持った誰かが開館当初はいて、この美しいポスターを制作したのかも
しれない。

そんな想像をしながら、たっぷりと時間をかけてポスター達を眺めた。

http://www.nntt.jac.go.jp/centre/news/detail/180112_011688.html