2016年1月に開催された別役実フェスティバルのスペシャルイベント。
別役実作品にまつわる歌を観客にお届するライブ。
歌い踊るはずなのに、舞台上のセットはやはり電柱・バス停・そしてベンチなのだ。
第一部は別役さんが書き下ろした音楽劇からの曲が披露される。
そして、演劇集団円が長年子供向けに上演している円こどもステージより
「赤ずきんちゃんの森の狼たちのクリスマス」を、歌と朗読で短く編集して上演した。
これがかわいらしかったなあ。
あの、人の死が無機質に描かれる別役作品なのに、おおかみは赤ずきんちゃんを
コチョコチョくすぐるだけなんだよ!
円の俳優達の演技は当然のように熟練の味わいがあり、とても贅沢な短編劇だった。
幕間では別役さんの様子やエピソードが語られる。
一時期容体があまり良くなく、新作中止の報もあったが、現在ではかなり
お元気になられているそうで。
しかし段々良くなるという病気ではないので、現在も療養中のところを
Pカンパニーの林さんが訪れて今回のコンサートに関するお話を伺ってきたとのこと。
別役さんに円のこどもステージのために児童劇を書いてほしいと
依頼したのは、岸田今日子さんだった。
なかなか首を縦に振ってくれずに、1年以上かけて説得をした。
「僕の物語には教訓がない。教訓のない話は児童劇には向かないのではないか」
というのが断りの理由だったらしい。
そんなこんながありつつも別役さんは児童劇を書き下ろし、独特のユーモアと
優しさを持つ作品は好評で、その後も円への作品提供は続く。
やがて、円こどもステージを見た子供がお母さんになり、彼女が子供を
連れて同じ舞台を見に来たと聞いた時は、あの冷静沈着な別役さんも
珍しくとても感動したしたらしい
「めったに感動するような人じゃあないんですよ、いや、そんなことないか(笑)」
「めったに感動するような人じゃあないんですよ、いや、そんなことないか(笑)」
1部の最後には「<不思議の国のアリス>の帽子屋さんのお茶の会」終盤で歌われる
短い歌を、数バージョン続けて歌うコーナーがあった。
この戯曲に歌詞は書かれているが、決まったメロディーはないので、上演する劇団は
自分たちで作曲して上演する。
歌詞は同じなのに別のメロディーで、そのどれもが優しい。
第二部は六文銭のライブコンサート。
現在は「六文銭’06」というバンドになっていて、メンバーは小室等さん、
及川恒平さん、四角桂子さん小室ゆいさん(小室等さんの娘さん)。
「スパイものがたり」の劇中歌がメインだった。私は「スパイものがたり」を
見たことがない。
今回聞いて驚いたのが、どれも名曲ばかりなのに、すべての歌の歌詞を聞いても
ストーリーがさっぱりわからなかったこと!
ここまでわからないとかえって面白くなってくる。いつか観に行こう。
♪ある日スパイがやってきて ある日突然いなくなる はじめとおわりのあるものがたり~
小室さんと及川さんも別役さんにまつわる思い出話を語る。
小「彼(及川)は元々流山児祥と芝居をしていたんですよ。よくまぁ別役さんの
ところに行ったね~。流山児に殴られなかった?」(笑)
林さんも別役さんから聞いてきた思い出話を伝えてくれる。
1960年代。新宿にその日の上映が全て終わった後に、演劇を上演する
映画館があった。
別役青年も芝居を打ち、脚本はもちろん制作から受付まで全て自分でやっていた。
芝居が始まるのが夜の10時半頃なので、当然終わると終電はもうない。
いつも同じ店で酒も飲めないのに朝の5時までねばり、始発で帰った。
毎日そんな暮らしだった。
別役さんは、懐かしそうに及川さんとの初対面を語ったそうで。
「彼は最初に会った時、青いベルベットの上着を着た可愛らしい少年坊やだったんだよ」
小室さんとの最初の出会いは覚えていない。でも・・・
小室さんとの最初の出会いは覚えていない。でも・・・
「あの頃人は、会うべくして会っていたんだ。」
学生運動の熱を帯びていた時代。
才ある若者達が集う場所は時代の交差点で、「貴方に会わせたい人がいる」と紹介があり、
もしくは偶然出会い。
出会うべき人達は出会えるようになっていたのだろう。
小室さんも別役宅で土方巽氏に初めて会ったのだという。
「酒を飲み始めたら土方が『僕は背中に死んだ姉を背負っているんです』とか
「酒を飲み始めたら土方が『僕は背中に死んだ姉を背負っているんです』とか
言いだしてね。こりゃあえらい所に来ちゃったと思ったよ!」
そんな話を聞いているうちに胸が熱くなって、終演後思わず別役実フェスティバル
ポスターを購入してしまった。
これ、部屋に貼るのはちょっと…知らない人が観たら謎のおじいさん写真だよね…。