2015年12月12日土曜日

ミュージカル「秘密の花園(Secret Garden)」

かれこれ20年程、日本で見てみたいと望んでいるミュージカルがある。
バーネット原作「秘密の花園」。
有名な児童文学であり、私の世代だとなぜかTVで映画を放送した時に、間下このみが声を拭き替えていたことを覚えている人が妙に多い、あの秘密の花園である。

1991年にブロードウェイで初演され、トニー賞も数部門とっているのでかなりメジャーなミュージカルと言えるはず。
実際、海外では原作の知名度も高いし子供にも分かりやすいので、ファミリーミュージカルとして地域の劇場で上演されたり、演劇学校の公演として使われることが多いらしい。
私も海外で一度だけ見たことがある。

しかし、日本では翻訳上演される機会がほぼない。
海外プロダクションによる日本上演は一度あるらしく、神保町の古本屋で当時売られていたパンフレットを手に入れた。
まあ、日本でもたまーにやるらしいけれど、大手のプロダクションではなく宣伝もほぼ無い状態なので、見過ごし続けて今に至るというわけで。

今年の6月に日本初演!と謳った、かなり本格的な「秘密の花園」ミュージカル版が上演されていたのを知ったのは、もう夏も終わる頃だった。
またスルーしてしまったーとジタバタ嘆く私に吉報が!
10月に一部を抜粋したコンサートがあるらしい。
これは行かねばなるまい。

「いい曲あります vol.2 秘密の花園、ザ・ベストテン編」
出演者:阿川建一郎、金平真弥、武藤寛、山下麗奈
(ゲスト)湯浅ももこ、池田葵、岡﨑桃子
http://ameblo.jp/iikyokuarimasuvol2/

 秘密の花園キャストに入っていたミュージカル役者数名が、定期的に行っているライブの第二弾・・・なのかな?
一部が「ザ・ベストテン」を模した歌番組の裏側を描く、楽しいコメディ仕立てのステージ。
休憩を挟んで二部が秘密の花園の抜粋コンサートだった。

この1部もなかなか面白い。
観客が馴染み深い、ミュージカルの有名曲以外を入れようという意図があったのかな?
歌謡曲、アニソン、日本のオリジナルミュージカル曲etc
意外だったのは、ディズニーシーのアトラクション「シンドバッド・ストーリーブック・ボヤージュ」の「コンパス・オブ・ユア・ハート」。
映画以外からディズニー曲を持ってくるのは珍しいと思って。
アメリカのミュージカルドラマ「SMASH」の曲が選ばれていたのも同じく。

2部がお待ちかねの秘密の花園。
【曲目】
1.    Prelude「前奏曲」
2.    Opening「金のクロッカス」
3.    I Heard Someone Crying「どこかで誰かが泣いている」
4.    Lily’s Eyes「リリーの瞳」
5.    Disappear-Transition「いっそ全てなくなれば」
6.    The Girl I Mean To Be「私のなりたい女の子」
7.    Hold On「あきらめないで続けましょう」
8.    Quartet「カルテット」
9.    Come To My Garden/ Lift Me Up「私の花園/僕を連れていってよ」
10.  Come Spirit Come Charm「精霊よ、現れよ」
11.  Where in the World?「どこまで行けば」
12.  How Could I Ever Know?「あなただけを残して」
13.  Final「光射す庭で」

セット無しのコンサート版ではあるけれど、出演者は衣装を身につけているし、コーラスも入っている。
演出はオリジナルブロードウェイ版をほぼ踏襲しているはず。あらすじも原作通り。

ミュージカル版にはいくつか特徴がある。
まず原作は主人公の少女メアリーを中心とした子供たちの物語だが、ミュージカル版では
メアリーを引き取る叔父アーチボルト、その弟ネヴィル、アーチボルトの亡き妻リリーの恋愛要素が入ってくる。
そして、一緒に庭を蘇らせる男の子ディコン役を大人の男性が演じる。
メアリーやコリンより少し年上とはいえ、ディコンもまだ少年のはずなのに
なぜこういう指定があるんだろう。

最大の特徴は舞台上にアンサンブルの人達がいること。
彼らは登場人物達と会話を交わすことはなく、見守るように存在し続けている。
歌詞に出てくる「精霊」のようなものだろうか。
この役で出演者を増減できるから、演劇学校の公演に使われやすいのかも?

リリーの歌う「金のクロッカス」から、うわーこれが聞きたかったんだよ~と感動して目が潤む。

リリーはクラシカルなソプラノで歌う役なので、声楽畑の方がキャスティングされる
ことが多いらしい。綺麗な歌声。
メアリー役の女の子も達者だなあ!
難しい歌をきちんと歌いこなせるので、「どこかで誰かが泣いている」も聴きごたえがある。
この曲は重苦しい雰囲気の屋敷の中で、それぞれが自分の哀しさを歌う。
その全てを包み込むリリーのコーラスが美しい。

男性二重唱の超名曲「リリーの瞳」
愛する亡き妻リリーとメアリーの瞳が似ていることに動揺するアーチボルトと
ネヴィルが、彼女を想いながら歌う。
原作を読むと冷たい男だなくらいのアーチボルトが、このミュージカルでは
正直駄目な男である。
嘆き、妻を恋しがり、もう生きる意味が見いだせないと四六時中どんよりして、
息子に会おうともしないわ屋敷の管理は放棄するわ。
あげくの果てに逃げるように海外旅行に行ってしまう。
おーまーえーに家庭を持つ資格などないわー!!
まあ、愛する人に出会ったけれど、元々結婚向きじゃなかったんだろうな…。

私の大好きな歌「Hold On」。
お前のせいでコリンは死んでしまうとネヴィルに言われたメアリーが、ショックを
受けて落ち込んでいる時に、女中のマーサが歌ってくれる。
日本語役では「頑張ろう」だけれど、どちらかというと「今は頑張って耐えよう」
というニュアンスだと思う。
立ち向かえど、自分の力ではどうしようもない時もある。
その時には「苦しい時はいつまでも続かない」「夜明けはきっと来る」と
信じて、希望を忘れずに今を耐える力強い歌。

How Could I Ever Know?」も泣けてしょうがない。
残した貴方がこんなに苦しむなんて知っていたら、と悔やむリリーとアーチボルトのデュエット。

終盤はハンカチを握りしめて泣きながら観てしまった。
来年以降に再演の予定もあるらしい。
今度こそ必ず観に行こうと思う。