2019年8月22日木曜日

日本SF大会 海外ドラマ企画「TVファンタスティック」

久しぶりに日本SF大会に参加した。
SF
大会は毎回会場が変わり、今回の開催地は大宮。
今年は企画の一部分だけ参加できるスポット入場券というシステムができたのがありがたい。

お目当ては海外ドラマ研究「TVファンタスティック」。
SF
大会で長きにわたる人気企画だ。
出演はアニメ特撮関係のライターとして草分け的存在である池田憲章さんと、海外ドラマ研究家の松岡秀治さん。
前回参加した2015年米子大会の時は特集が英国ドラマだった。
シャーロックが盛り上がっている頃だったのかな?
映像で紹介してくれた、時空刑事1973のイギリス版とアメリカ版のラストのあまりの違いに、会場があんぐりとしていたのが記憶に残っている。
あとはブライアン・クレメンス、テリー・ネイション、デニス・スプナーなどについて語られていた、らしい。
私もすっかり忘れていて配布された冊子を読み思い出した。

今回のメインテーマは「完走できなかった大作シリーズ」。

松「皆さんご存知ですか?スーパーナチュラルがとうとう終わるそうですよ」


会場の声「まだやってたんだ!?」

<完走できなかった大作シリーズ>

そもそも80年代までのアメリカドラマは1話完結が基本だった。
長く続くSF大河ドラマは「バビロン5」「Xファイル」あたりがエポックメイキングとなる。
逆に今では1話完結であることが売りのドラマが出てきている。
SF
は特に壮大な設定と展開が用意され、一体どうやってこの事態を乗り越えていくのか!という大きな風呂敷を広げるものなので、それを畳めないうちに終了となってしまう作品も多々ある。
予算も莫大だろうしね~。

いくつか紹介された中で印象的だったのは

・殺すにしてももっとやり方があるだろう!というあんまりなヒロインご臨終エンド「ALCATRAZ アルカトラズ」

・池田さんが主人公さえ助かればそれでいいのかねえ(苦笑)とこぼしていた、町中が水中に沈み主人公たちが塔の上に避難して呆然とする「Surface


・打ち切りというより続編が作られるかわからない状況なので、「切れるものなら切ってみろ!」と言わんばかりのクリフハンガー場面でシーズン最終話を終えた「新スタートレック」。
こちらは無事に続いて良かった。あれで打ち切りならトレッキーがきっと暴動を起こすよ。

LOSTのヒットにあやかれ!と作られたものの死屍累々な所謂「POST LOST」な数々のドラマたち。
謎が謎を呼ぶ系は、奇跡的にうまくいったLOST以外はほぼ全滅。

逆に完結の仕方が素晴らしかったと松岡さんが絶賛した近年のSFドラマとして「スターゲイト アトランティス」が挙げられていた。

印象的だったのは池田さんの語っていた「世界観を完結させようとするとキャラクターが死んでしまう。
その場合世界観とキャラクターのどちらを取るべきか。
TV
ドラマの場合はキャラクターが活きないとどうにもならないところがある。
世界観を取ったドラマは失敗して打切りになりがち」という話。
ストーリーを優先させると不思議とうまくいかない。
作品はまるで生き物のようで、作り手のコントロールから抜けてしまうことがある。


<マーベルとDCコミックス>


最近はマーべルユニバース、アベンジャーズなど映画でマーベルが大勝ちしている印象が強いが、実は昔からドラマが成功しているのはDCコミックスの方なのだという話。
松岡さんが池田さんにその理由を問い、きっとDCコミックスのヒーロー達の方が心の襞が深い、私たちに近い存在だからではないかと。
ヒーローものでも、ドラマでは日常を描かなければならない。
毎回闘ってばかりいるわけにはいかないからね。
対してマーベルのヒーロー達は、悩みを持つ人間を超越した存在である。
その分、鮮やかで映画のスクリーンに映える。
ヤングスーパーマンは長く続いたけれど、ヤングアイアンマンだとなあ〜という話に確かに!と笑う会場(遊んでそう・・・という声が)。

この時に池田さんが「部屋から出てきたので持ってきたのですが」となにげなく取りだしたのは、バットマンが表紙の60年代TIMES誌!うぉ~~。


 <ゲーム・オブ・スローンズ後のドラマ>

SFではなくファンタジー作品ではあるが、そのあまりの人気にその後のドラマに確実に影響を与えた「ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)」。
HBOはスピンオフの予定があるとはいえ新たなドル箱を作りたいし、他の放送局も後に続け!と制作している結果、予告編がなんかGOTっぽいぞ?というドラマがいっぱいできている。
大ざっぱにいえば苦悩しまくる登場人物達・バトルシーン・ファンタジー要素かな。
THE WICHERS」「Carnival Row」などの予告編が流れる。
どれもあまりにも殺伐としているので、アメリカは日本のラノベ(お気楽でハッピーエンドのやつ)を1本くらいドラマで作った方がいいのでは?というジョークも出る。

GOTとは関係なく、池田さんが度肝を抜かれたというのが「ウエストワールド」シーズン3の予告編。
このドラマが一体どういう方向に向かうのか予想もつかないし、それ故に楽しみだと。
私はウエストワールド辛くて最初の方でリタイヤしちゃったんだよね。

 
<スタートレックいろいろ>

特にコーナーはなかったが、どうしたって頻出するのはスタートレック話。
SFドラマファンにとってスタトレは基礎教養なのだということを実感する。
そりゃ私も興味はあるけれどね、もう膨大すぎて今からじゃどうにもならないから…。
とはいえスターウォーズを観なくともフォースやダースベイダーを知っているように、なんとなくの知識はあるので興味深く聞いたスタトレ情報をまとめてみる。

・スタートレックの短編ドラマが制作され、これがマニアから見てもなかなか出来が良い。
その名も「ショートトレック(Star Trek: Short Treks)」。
日本では放送局がディスカバリーチャンネルだったかな?
ドラマ1本にするには足りないけれど、捨てるには惜しい良いアイディアをここで使えるのはいいね、という話だった。
優れた小説家やシナリオライターは短編の名手でもあると言われているし、さらにスタートレックというファンの多い人気シリーズで認められているということはかなり良いのだろうな。
役者はスタートレック・ディスカバリーのキャストを使っている。

・紹介された映像を観て「スタートレックのパロディ?」と思ったのが「The Orville」(宇宙調査艦オーヴィル)。
これ、テッドシリーズでおなじみのセス・マクファーレンが監督しているSFコメディだそうで、多分誰が観てもスタトレ・・・?と思うだろう。
それもそのはず、セス・マクファーレンは学生時代に自分でパロディ映像を自主制作していたほどのトレッキー。
満を持して公式に作っちゃったわけだ。
松岡さんが「私はこれを観るためだけにFOXスポーツに加入しました!」と言っていた。
(なぜ放送がFOXスポーツ?)
このあたりで出たのが
「ブライアン・フラーは上品だけれど悪趣味。セス・マクファーレンは趣味はいいけれど下品」
という話。
前者の代表作がハンニバル。後者の代表作がテッド。ああ~と皆納得。

・ミシェル・ヨーがやりおったで!
「スタートレック・ディスカバリー」のスピンオフドラマが制作中で、その主役が船長フィリッパ・ジャージョウ役のミシェル・ヨーだと報道されている。
カンフー映画出身のアジア人スターがアメリカのドラマの主役を射止める、これはジャッキー・チェンでもできなかったことですよ!と。
しかも50代後半の女性。世界の潮流とは言えやはりワクワクする。
映像で見てもかっこいい。

若い頃から作品の大ファンで、成長して監督や脚本家になりその作品に関わるという美しい循環は長く続くドラマだからこそ可能なこと。
ドクター・フーやスタートレックの話を聞くとそう思う。
日本ならば戦隊物やアニメのシリーズが当てはまるのかもしれない。
今回池田さんがお持ちになったサンダーバードの映像で、当時はラジオドラマ?ソノシートのようなものと話していたので発売されたのかな?とにかく音声だけだったドラマに現在の技術で映像を合わせたものが紹介されて、スタッフのサンダーバードへの愛をとても感じた。
だから声がオリジナルなんですよ!と松岡さんも感慨深げに話す。
ペネロピが国際救助隊に入る前日譚だったかな。 

<これからのドラマ>

今回資料として「2018年<海外SFTVドラマ>米公開新作・継続リスト」と「2019年海外SFTVドラマ<日本初公開リスト>」が配布された。
どちらも100本弱が掲載されている。
日本で見られるSFドラマはこんなにあるのか!と、ロシア・メキシコ・コロンビア・インド・中東など多岐にわたる国の作品であること両方に驚く。
やはり多いのはNetflix。最近では地上波の放送が終わり、続編はNetflixで放送される「ルシファー」のようなドラマも出てきた。

日本から眺めるとNetflixの独り勝ち!大勝利!に見える状況だが、アメリカでは少しずつ変化が出ているようだ。
大手メディア同士の合併が進み、Netflixに対抗するべく各社がストリーミングサービスに参入し始める。
今までNetflixに提供していた自社コンテンツを引上げ自社のプラットフォームで配信する。
ディズニーとFOXの合併は強烈。彼らはマーベルも手に入れているわけで。
Netflixに入っておけばまぁ大体のものは見られるだろう、という時代はそろそろ終わるのかもしれない。
それを見越してNetflixもオリジナル作品に力を入れているのだろう。

それにしてもお二人ともどれだけの有料チャンネルに加入しているのだろう。
DVDだってチェックしなければならないし。
そう考えていると松岡さんから「海外ドラマを全話観ているひとなんていませんよ!(笑)」という言葉が。
途中でつまらない(ついていけない)と感じたら観るのをやめる。
後日、海外ドラマ仲間と話をして「○○観てます?やめちゃった?今すごい展開になってるから観て下さい!」と言われたら慌てて再視聴する。
こういう仲間を何人も持ってお互いまめに意見交換をしていると、自分では把握しきれないドラマの中で要チェック作を見逃さずにいられるらしい。
仲間は大事ですね。あと、やはりその努力が凄い。

 
企画の最後に池田さんが語ってくれたのが、海外のSFドラマは現在様々な表現を取りこみ再構築しているところなので、諦めずに見守り続けて欲しいということ。
HBOがゲーム・オブ・スローンズを制作するにあたり手近な人気を取る事をせず、粘り強く長い目線で続けながらラストへの高みに登るように物語を紡いでいった結果、あれだけの大成功をおさめた。
それは小説のテクニックを総動員した賜物なのだという。
夜の王を倒したまさかという意外な人物(ネタバレはしませんよ、とニコリ)、そのカタルシスと神話的な構造。
沢山のSFやファンタジーの長編小説を読んできた人達にとって、それは何度も味わったことのある感覚だ。
長い長い物語を案内してくれたキャラクターを愛し、彼らと共に冒険をした。その小説を読み終えた時の不思議な感覚。
その小説的手法を映画に取り入れることに成功したのが「ロード・オブ・ザ・リング」だった。
そしてとうとうゲーム・オブ・スローンズがドラマにその手法を取り込んだ。
これから作られるドラマは、どうしたってゲーム・オブ・スローンズの影響を受けざるをえないだろう。
さあ、どう変わっていくのだろうか。

日本SF大会は参加者の平均年齢が高く(50代?)、私はオープンキャンパスかセミナーを聞きに行くような気持ちで参加している。
企画で語ってくれる50代以上の評論家・作家・編集者な方々は気骨ある世代のオタク・マニアであり、長年追いかけてきた膨大な知識と知見がある。
松岡さんは軽快なトークにユーモアを交えて次々とドラマのおすすめや解説を繰り広げるし、池田さんは正に知識の泉で情報と考察にひたすら感銘を受ける。
知的好奇心がヒタヒタに満たされて、今回も大満足の企画だった。

日本SF大会の開催地は2020年が福島、2021年は香川。
遠くから足を運ぶのは難しいかもしれないが、住んでいる地域の近くで開催されるならばどんな企画があるかだけでもチェックしてみて欲しい。