2019年3月11日月曜日

メリー・ポピンズ リターンズ

青春時代にジュリー・アンドリュースが憧れだった母に育てられた私は、
一番古い記憶にあるミュージカル映画がメリー・ポピンズだ。

また、母はミステリー好きでもあったため、NHKで放送していた
BBCのクリスティードラマ(ポワロ、ミス・マープル、クリスティじゃないけどホームズ)を
家族みんなで欠かさずに見ていた。
だからだろうか、私は外国といえばまずロンドンをイメージする、少々
イギリス贔屓な女の子に育った。
 
メリー・ポピンズの続編が(今さら)作られるならば、これは絶対に母と
一緒に行きたい!
休みを合わせるのに時間がかかったため、公開からだいぶ経ってしまったが
念願の「メリー・ポピンズ リターンズ」を見ることができた。
タイトルは「帰ってきたメリー・ポピンズ」でいいのでは?と思ったけれど
いかにも続編という感じで観客動員に響くかな。
小説2作目の「帰ってきたメアリー・ポピンズ」の原題は「Mary Poppins Comes Back」。
今回の映画は「Mary poppins Returns」。
カムバックとリターンの違いは何だろう?
 
エミリー・ブラントの演じるメリー・ポピンズは、ツンとすまして気取っている完璧屋さん
なところが原作と近い。
ジュリー・アンドリュース版は随分と優しい性格に変えられたため、原作とは
だいぶずれているのだ。
なので、メリー・ポピンズ→リターンズと映画だけを見ると冷たく感じる彼女に
面食らうかもしれない。
(この間に作られたミュージカル版のメリー・ポピンズは原作準拠)
 
凧と共に現れる一部の隙もないエミリー・ブラントのメリー・ポピンズ登場シーン
を見るだけで胸がいっぱいになる。
本物だ!本物のメリー・ポピンズが桜通りに帰ってきた!
バートは今も元気で世界中を旅している、という設定もいいじゃないか。
1作目の映画の彼は、メリー・ポピンズと同様に不思議の世界の住人というイメージだったので。

今作のジャックは幼い頃にメリー・ポピンズの不思議さに触れていたおかげで、
他の人たちよりも順応性は高いが、バートよりは地に足のついた普通の人間だ。
まさかジェーンの恋のお相手になるとは思わなかった。
あのリン・マニュエル・ミランダがロンドン訛りで歌っているのが面白くてしょうが
なかったけれど、案外すんなりと馴染む。
 
妻に先立たれたマイケル(ベン・ウィショーの困り顔が天下一品)は、優しく善良な人
間だけれど、大恐慌の時代においては少々頼りなく。
そんな父親を見てマイケルの子供たちは、自分達がしっかりしなくては!と、
よくできた「小さな大人」になってしまった。
わがままだったジェーンとマイケルが「乳母なんて大嫌い!いらない!」と
キーキー叫んで拒否していたのとは対照的に、「私たちは何でも自分でできるので
手助けなど結構です」とお断りする。
現実を見つめるあまり、夢を見る事ができなくなってしまった子供。
「そんなこと現実ではありえない。できっこない」としたり顔で言う子供たちを
夢の世界に引きずり込み、あっという間に夢中にさせるメリー・ポピンズが痛快だ。
 
『何をするにもほぼ完璧』な彼女なので、あらゆる困りごとは解決できるのでは?と
物語の途中に何度か考えるけれど、彼女は魔法使いではなく乳母であることを思い出す。
子供を成長させるのが彼女の役目。
大人が出張って何でも解決してあげることが子供のためではない。
そしてメリー・ポピンズは子供だけではなく大人も成長させる。
 
ネットで検索すると「悪くはないが前作ほどではないし、チムチムチェリーのような
耳に残る名曲がない」という感想が出てきて、えっどんだけハードル高く設定して
いるのさ!と驚愕してしまった
違和感なく前作(あの大傑作)と地続きの世界感をキープしていることが、どれだけ
凄いことか!!
 
心浮き立つダンスナンバーにきちんと「言葉あそび」を入れた「Trip a Little Light Fantastic」。
なくなったものは消滅したわけじゃない、ただ目の前から消えただけという大切な
命題を歌う優しい「The Place Where Things To Go」。
メリー・ポピンズと言えば!アニメと融合したショウナンバーということで「The Cover
 is Not A Book」。
物語の最初のページと最後のページを担う「Lovely London Sky」。
 
どれも繰り返し聴くことで、心の中で大切な宝石になりそうな珠玉のナンバー揃いだと思う。

また、ミュージカル好きからみてもこの映画は熱い。
監督はロブ・マーシャル。
映画「CHICAGO」の監督として有名になったけれど、1999年のサム・メンデス版「CABARET」が印象深い。
 
そしてリン・マニュエル・ミランダ。
2008年のトニー賞で受賞スピーチをラップで述べていたあの28歳の青年が、
「Mr.ソンドハイム。僕も帽子を作りました!しかもこの帽子はラテン製なんです!」と
叫んでいたあの青年が、アメリカ中の話題をさらう歴史ミュージカルを作り、
ザ・ディズニークラシックミュージカルであるメリー・ポピンズに出演するまでになった。
この10年でラップは圧倒的な市民権を得て、あのメリー・ポピンズの新曲にまで
組み込まれた(The Cover is Not A Book)。
リン・マニュエル・ミランダという才能が全てを繋いだように見える。
 
前作の鳩の餌売りのように印象を残す風船売りの女性はアンジェラ・ランズベリー。
彼女は何と言ってもジェシカおばさんの事件簿のジェシカおばさんなのだけれど、
様々なミュージカルに出演している大女優。
「スウィーニー・トッド」や「メイム」のオリジナルキャストだったりする。
彼女やディック・ヴァン・ダイクはもう、ひたすら間に合ってよかったね…という気分。

私は"突然歌いだすからミュージカル苦手族"とは真逆をいく
「どんな場面でも歌い踊らずして何がミュージカルぞ!」というミュージカル過激派なので
歌いだす前にピン♪と、さあここから歌うよ!の合図が鳴るとワクワクする。

うーん、大好きなシーンがいっぱいあって困る。
陶器の中に入った後、馬や人々が歩く音が、あぁ陶器でできた地面を歩いたら
きっとこんな音がするんだろうな~というドンピシャな効果音で素敵。
それと、色んな不思議が沢山出てきたけれど、私が思いのほかグッときたのは
提督の大砲がビックベンの鐘と合ったところ。
絶対にあり得ない、常識からはずれている。誰もがそう思う日常的な非常識が
奇跡によって現実と重なり合う瞬間。
生涯で1度くらいなら、私にもこんな事が起こるかもしれない。

映画を心から楽しんだ母から
「またこういう明るくて楽しいミュージカルがあったら連れていって。
暗くて辛いのは新聞とニュースだけでたくさん」
と言われる。
10代の頃の私ならばこれを聞いて大人ってつまんないなと思うだろう。
でも私ももう風船で空を飛んだって明日には忘れてしまう側だから。
「4月にSHE LOVES MEがあるからどう?」と誘って微笑んだ。