今まで幾つかのバージョンを見た中で、一番コメディ要素の多いものだった。
チェーホフといえば登場人物それぞれが自分が世界で一番不幸という顔を
しながら、モノローグで嘆くというイメージだ。
今回は演出家の鈴木裕美さんが「10人の残念な人々」と表したのもわかる気がする。
登場人物はみんな自分の願望ばかりを主張している。
承認欲求の塊、叶わぬ夢への絶望、打算的な考え、有名人になりたい、
過去の後悔etc。
あんなに強くはないけれどどれもひとかけらくらい自分の中にもある感情
で、その感情を声高に振りかざす姿を滑稽と感じるとブーメランになって
自分へ返ってくる。
全体的にちょっと叫びすぎかなという気はするけれど、眠くならなかったかもめというだけで私にとっては貴重(志が低い)。
バックステージツアーで入手した裏話をいくつか。
・2001年にNYのセントラルパーク上演される野外劇「かもめ」を偶然
鈴木裕美さんと小川絵梨子さんが見ていた。
そのかもめが今回使われたトム・ストッパードの翻訳版。
メリル・ストリープがアルカージナ、ナタリー・ポートマンがニーナ、フィリップ・シーモア・ホフマン、クリストファー・ウォーケンと
倒れるほど豪華なメンバーだった。
・トム・ストッパードといえばシェイクスピア(「ローゼンクランツと
ギルデンスターンは死んだ」や「恋に落ちたシェイクスピア」の作者)。
なので、かもめにもシェイクスピアからの引用が台詞のそこかしこに見られる。
・チェーホフの台詞はそのままだけれどト書きの演出は無視している。
また、本来はモノローグで語るところをなるべく誰かに向って語りかける形式に変えている。
・湖は本水を使いたかったが、今回は地方の劇場も周るのでNGとなった
・今回はフルオーディションで選ばれた役者に注目して欲しかったので、
演出や衣装などは奇抜なものではなくオーソドックスにした