あのナショナルシアターライブで見ることができる!
ラインナップが発表されてからとても楽しみにしていた1本だった。
上演していた劇場の取り壊しが決まった。
主催者のミスター・ワイズマンはかつてのレビューダンサー“ワイズマン・ガールズ”達に招待状を送り、最初で最後の同窓会を開催する。
この劇場で出会った二組のカップル(サリー&バディ、フィリス&ベン)も
久しぶりに再会し、かつての恋のすれ違いに翻弄される。
同じソンドハイム作品であれば、人間関係が気薄な独身貴族である男性が
人生を見つめ直す「カンパニー」に近い。
フェリーニの8 1/2をミュージカル化した「ナイン」も思いだした。
本編前の対談でソンドハイムが「前代未聞のあらすじの無いミュージカル」
と語っていた通り、確かにメインのあらすじは2組のカップルの葛藤のみ。
他はかつてのワイズマン・ガールス達が自らの人生を歌いあげるナンバーが続く。これでもか!というショーストッパーナンバーばかりなので、歌唱力・
演技力の無い人がいると悪目立ちしてしまう恐ろしい作品かもしれない。
しかしそこはキャスティングに1年をかけたと言うだけあって、演技力と
歌唱力を併せもつ役者が揃いとても見応えがある。
NTLはカメラが切り替わるので迷うことはないが、実際の劇場にいたら
どこを見ていればいいのかわからないのではないか。
この舞台では現在のガールズ役と若い頃のガールズ役の女優が一人ずつおり、さらに端役やダンサーの男性陣も登場するので、もう宝塚のような大所帯。
レビュー場面のために煌びやか衣装も用意されている。
めちゃくちゃお金かかるだろうな~。そりゃ滅多に上演されないわけだ。
一番感動したのは物語の冒頭での階段降り。
「この年で階段を登れというの!」なんて悲鳴を上げているかつてのワイズマン・ガールス達は、もう立派なおばさん(&おばあさん)に
なっている。
老けたり白髪になったり太ったり。お金持ち、未亡人、現役選手。
そんな彼女たちが「ワイズマン・フォリーズ」のOPナンバーに乗せて、
階段から一人ずつ降りてくる。
舞台の反対側では、若い頃の自分が美しい衣装で階段から降りてくる過去の光景が展開される。
若い頃のワイズマン・ガールズ達は皆輝くように美しいが、それぞれに
あまり特徴はなく見える。
それに比べて現在の彼女達の個性的なこと!過ぎしてきた年月と生きてきた人生が、身体全体から溢れている。
それは歌も同じ。歌に人生がにじみ出る。芝居の延長上に歌がある。
これが出来る役者ばかりで構成されているミュージカル。
なんて贅沢なんだろう。
好きだった曲はワイズマンガールズ達の紹介ナンバー「Beautiful girls」
この名曲、フォーリーズからだったのか!「Broadway Baby」恋人を待つ「Waiting for the Girls Upstairs」
若い娘はクールになりたくて、大人の女は純粋さが欲しい「The Story of Lucy」
新婚カップルの2組が歌うカルテット曲はどれだろう?
あれ、軽~く歌っているように見えてマイムもダンスも入っていて
難しいと思う。
主役の4人は中年の恋、にしてはいささかお歳を召しているのでは?
とは思うものの、当然のように実力派。
私のお目当てだったフィリップ・クワストは、相変わらずの美声な伊達男でいらっしゃる。
(彼はレ・ミゼラブル10周年コンサートのジャベールなのだ)
バディ役のピーター・フォーブスも良かったなあ。
見た目は頭のつるっとしたおじさんなのに、かつての青年役と同じくらい
甘い声で♪the Girls Upstairs~と唄う。
それにしても登場人物ではバディが一番気の毒だ。
そりゃ浮気はしたけれど、優しい良い人じゃないか。浮気の原因は妻であるサリーにありそうだし。
フィリスも切ないよ…。
弁護士を目指している野心溢れる青年に、衝動的にプロポーズされたショーガール。夢の様な気分で泣きながら
「わたしこれからいっぱい勉強して、たくさん本も読むわ。
メトロポリタン美術館に通って教養も身につける。貴方に似合う女性になるわ!」
とベンに告げている若き日のフィリス。
しかし、努力して教養も上流階級らしい生き方も身に付けた今の彼女は、
夫の愛を失い虚しい生活に絶望している。
清廉潔白な人間などいない。
幾つになっても恋に惑うし、取りみだした末に道を誤る。今更しょうがないとわかっていながら、あの時違う選択をしていれば…なんてクヨクヨする。
そういうもんだ。人生も。大人も。