2014年1月20日月曜日

私の愛したレストラン~ア・ラ・カルトに感謝をこめて~

青山円形劇場の師走の風物詩「ア・ラ・カルト」が、こどもの城の閉館と
併せて去年末で終了となった。なんとも言い表せないような寂しさを感じる。
何しろ、高校生の頃から通っていたもので。
 
一週間ほどだった公演期間が一ヶ月間に延び。
世間の規制を受けて、ワインサービス
が有料になり。
2度ほど公式パンフレットが作成され。
1度だけ、シアターテレビジョンで
放送もあり。
 
10年前も15年前もあったレストランが
もう今年の年末にはないのだ。
 
ア・ラ・カルトを語ろうとすると、どうしても自分語りになってしまう。
毎年欠かさず足を運ぶファンにとって、その年を思い出す道標のような芝居だったから。
 
ア・ラ・カルトは優れたコメディだった。
 
前半で上演される、サラリーマン高橋と
その彼女(後に妻)典子の
カップルによるドタバタコメディは、台詞も会話も軽やかでテンポが抜群。
二人の会話には、必ずその一年の出来事や
流行語がうまく挟みこまれる。
ここのパートだけを初年度から全て
集めてDVD化すれば、25年間の
日本のトレンドを笑いと共に追うことの
できる、演劇史に残るような作品に
なったでしょうに。
 
また、舞台のメインとなる男女の
ラブコメディ。
オシャレで、楽しくて、キュートで。
何より脚本が素晴らしい。
小劇場にハマり、それなりに沢山の
芝居を見るようになっても“ア・ラ・カルトの
ようなコメディ”にはなかなか出会えなかった。
しかし、この感覚はどこかで馴染みがある。
一体どこで見たんだろう・・・?
 
その答えは、アメリカのコメディ
ドラマにあった。
フレンズ、フレイジャー、フルハウス。
ラブコメディであっても、しっかり
「コメディ」要素の強いアメリカのドラマ。
しかも吹替え版。
これだ!ア・ラ・カルトの笑いの
入れ方とテンポの良さ!
過去に脚本の高泉さんが、おすすめの
ドラマとしてダーマ&グレッグを挙げていて
そのコメディセンスに嬉しくなったものです。
 
ア・ラ・カルトはジャズの先生だった。
 
客席に配られている、メニュー表を模した
無料のパンフレットにはシーンタイトルと
共に、必ず演奏される曲名が入っていた。
このお芝居を観にいき、「ジャズって古臭い
曲ばかりじゃないんだ!」と衝撃を受けた
高校生の小娘は、曲名を書いたメモを片手に
レンタルCDショップと図書館を駆け回ることになる。
なにしろ、インターネットで検索など
できない時代だったから。
 
狙って借りたのにボーカルが入っていない、
アレンジが気に入らないということもしょっちゅう。
でも、そうやって借りたCDの中で数多くの名曲と出会った。
白井晃さん演じる歌姫・ペギーさんのおかげで、
シャンソンを聴くきっかけにもなったしね。
また
「ジャズライブでは、ミュージシャンのソロパートの後に拍手する」
などの作法を教えてくれたのもア・ラ・カルトだった。
 
ア・ラ・カルトはお酒も教えてくれた。
 
食前酒(アペリティフ)だけではなく、コースの最後には食後酒(ディジェスティフ)
があること。シャンパンは魚料理にも肉料理にも合うこと。
そして様々な名前の綺麗なカクテル。
ダンディーな陰山ギャルソンと、オチャメな
白井オーナーによるワインの解説は、実際にとてもためになった。
 
・・・こっそり告白すると、私が初めてお酒を飲んだのもア・ラ・カルト。
試飲用のような小さなプラコップに、1杯だけ白ワインを。
また、以前は夏に上演していた「きまぐれJazz倶楽部」で
サントリーのピーチツリーフィズを1缶飲んで、ちょっと
フラフラに・・・高校生でした。
ごめんなさい。
 
ア・ラ・カルトは青山円形劇場の達人だった。
 
青山円形劇場の完全円形という特徴を、100%
使い切っていたのがア・ラ・カルト。
たぶん日本一。
ということは、世界一の青山円形劇場使い。
生演奏に乗せて、出演者がテーブルの方向を
振り付けのようにスマートに変える。
芝居の中でまるで違和感なく席を移る。
ショータイムもどの席に座っても見えづらくなく、全方向に歌と踊りを届ける。
 
あまりにもストレスなく見ることができるので、完全円形ってそんなに難しく
ないのかも?と勘違いするくらい。そして、この劇場で別の芝居を見ると
ア・ラ・カルトの演出技術の高さに唸る。
 
さらに、演出の吉澤耕一さんが照明家として活躍しているだけあり
照明による演出も素晴らしい。
 
レストランの開店と共に強さを増す明かり。
踊る出演者の影が、まるで影絵のように壁面に映る。
老夫婦を照らす、包み込むような温かい光。
ア・ラ・カルトでは、生演奏の音楽が台詞と同じくらい雄弁に物語を
語るけれど、照明もまた同じく。
 
どうしても高泉淳子さん、白井晃さん、陰山泰さんの初期メンバーに偏った
感想になってしまいましたが、個人的な思い出と言うことでご容赦下さい。
劇中で使われた曲を集めたマイ・カセットテープも、貴重なパンフレットも
キュートなちらしも。みんなみんな、私の大事な宝物です。
 
さようなら、私の愛したレストラン。
ありがとう。