2014年1月2日木曜日

夢オチ王決定戦

なーんだ夢だったのか、の一言で物語の全てを片付ける夢オチ。
切迫つまった作り手にとっては便利なことこの上ないが、
読者や観客からしてみたら、じゃあ今までの展開は
なんだったのさ!と怒られかねないこの手法。
基本的には、やるべきではない禁じ手とされている。

では、その夢オチ縛りでネタを作ってみてはどうだろう?
というコンセプトで開催されたのが『夢オチ王決定戦』。
主催者は芸人狼や共感百景でおなじみの、スラッシュパイルです。

印象に残ったネタをピックアップしてご紹介。
がっつりネタバレしますのでお気をつけて。

スパナペンチ
今年の認定漫才師に選ばれた、人力舎の若手エース。
しかも現役大学生なわけですが、今回の注目はメンバーの
中で唯一の漫才師であること。漫才で夢オチ?
「‥っていう夢をみたんだ」「もういいよ!」
とかやるのかな?
結果としては、彼らもコントをやりました。

しかし、MCのキンコメ高橋さんも笑って突っ込んでいましたが
とにかく初々しいコントで。
まず、声が小さくて話しているうちに、2人がだんだん近づいて、
まるでサンパチマイクの前で並ぶような距離になってしまう。
冒頭の台詞が「あー、俺と彼女が付き合ってもう2年かあ」
みたいなテンプレートで、会場からクスクスと笑い声が漏れる。
かわいいなあ。彼らはまだ年も芸歴も若いのだものね。

シソンヌ
「助けて‥誰か助けて‥」という声が響き渡る。
女性の声だ、ここはどこだろう?

まるで、RPGゲームやSF小説のようなオープニングで始まった
コント。おおっ、これは夢っぽい。
氷の国の女王様から助けを求められるものの、自分では
何もできない。
「何とか助けたいんだけれど。ごめんなさい」
「いいのよ、誰か人と話すだけでも‥人、よね?」
「(食い気味に)人です!」

他にも、チェロの演奏を致しましょうと女王様に誘われるも
演奏なんてしたことがないので、と困ると
「貴方、自転車の空気を入れたことある?
じゃあ大丈夫よ」
ええっ、そんな無茶な。えーー俺なんで弾けるんだよ!!
この謎の展開とチェロ演奏のカタルシスが、非常に夢っぽかった
ですね。

しずる
わけもわからず監禁されて、殺されそうになっている男(村上)
とにかく殺そうとする男(池田)
この二人の攻防が繰り広げられる。
そしてこの池田さん演じる男が、まあ狂っている。

下着姿で全力のラジオ体操。
円形劇場を絶叫しながらぐるぐる回る。
あと、縛られている村上さんを見ながらあんパンとか
食べていたような。

ラスト、村上が夢から覚めるも、なぜか現実も似たような
部屋にいる。
不安を覚えているところに、夢と同じように銃を片手に飛び込んで
くる池田。落ち着け、お前を助けるために来たんだ。
ドアを開けようと背を向ける池田の背中に、錯乱したように
叫びながら銃を放つ村上。
彼の夢はさめたが、これから現実の悪夢が始まる‥

THE GEESE
タイトルをつけるならば「尾関の夢」。
ただし、MC高橋さんが「こっちの夢でくるとは思わなかった」
と話した通り、寝ている間に見る夢であると同時に
願望としての「夢」でもある。

夢の中の尾関さんはスーパースター。
いいともの後任を任され、園遊会に呼ばれ、最終的には地球まで救う。
反対に高佐さんは、現在20人体制の超新塾に加入し(リーゼント&
革ジャン)、パチンコ屋でパチンコの玉として就職し(全身タイツ)。
最後は・・なんだっけ?

ほぼ尾関さんの1人芝居が続く。
明るく、朗らかな役を演じる尾関さんは華やかだなあ。
コメディアンとしての資質が、とてもある人だと思う。
尾関さんとは逆に、どんどん転落?していく高佐さんは
美しい顔が、なんだか幸薄さに拍車をかけていて。
良いコントラストです。

この夢オチ王は、青山円形劇場を完全円形で使用するのも、
売りの一つでした。
全体的に見ると、あまり成功しているコンビはいませんでしたね。
一応最初は気にかけるものの、ネタが進むに従ってどうしても
一歩方向だけで演じてしまって。
そんな中、ギースは円形舞台をきっちり四等分して演出を考え
全方向の客席に見えるよう、作り込んでいました。
お客さんを等分に楽しませたで賞。

ラブレターズ
ある朝、目が覚めると自分が虫になっていた‥と書いたのはカフカですが。
ラブレターズの今回のコントは
「ある日、トイレに入ったらうんこじゃなくていくらが出た。
おれ、鮭かもしれない」

自分が鮭であることを自覚した溜口さんと、相方の変貌に戸惑い
ながらも、コンビとしてやっていこうとする塚本さんの、
奇想天外な夢物語。これが非常に面白かった!

たまにシュールの括りに入れられるラブレターズですが、彼らの
コントは不気味さやホラー的な要素こそあるものの、特にシュール
ではないと思うんですよね。
でも今回は、異常な設定のまま、それを正したり否定することなく物語が展開していく不条理コメディ。

2人の抜群に高い演技力が、物語に説得力を持たせる。
特に溜口さんの終盤の切ない演技は、あり得ない素っ頓狂な状況なのに
うっかり感動しそうになりました。
また、円形劇場の使い方も上手かったです。

今回の選手権、優勝者はジューシーズでした。
最初の設定は意表を突かれたものの、そこからの展開があまりなく
少々私は退屈に感じたのですが。
夢オチの方法が単なる夢ではなく、RPGの戦闘中にモンスターに
攻撃をかけられて眠っていた!というのは斬新。

第二回の開催が待ち遠しい、とても面白いライブでした。